悲しい放し飼い
黒い中型の雑種犬がリードも着けずに近所をウロウロ歩いていた。
おそらく以前に当院を受診したことがある犬ではないかと思う。
飼い主が犬を放し飼いにするので何度も注意していたのだが、数年前から来院しなくなっていた。
以前から見かけていて危ないなと思っていたのだが、その日は飼い主が小型犬を抱きながら一緒に歩いていた。
「○○ちゃーん、こっちよー」と言いながら放し飼いの犬を呼んでいた。
その犬は唸りながら私が散歩中の犬に近寄ってきたが、気がそれたのか暫くして離れていった。
そしてその後、近所の家の庭にも侵入していった、、、。
犬が苦手な人もいる。
歩行者や車の運転者にも迷惑をかける。
排泄物放置の問題もある。
放し飼いの結果、他犬との咬傷や交通事故で来院する犬もいる。
子供や年配の方が放し飼いの犬に吠えられて、怪我をした事件もある。
放し飼いの犬がご近所トラブルを起こし、殺処分される事もある。
犬に罪はない。
それでも犬は処分を受ける可能性がある。
悲しい放し飼いである。
可哀想?
霊長類を研究する学者が、人間と他の動物との違いを以下の様に説明していた。
「人間は過去と現在を比べて、より良くありたいと思う動物である」と。
だから過去の自分と比べて、喜んだり悲しんだりする。
以前より白髪が増えた、歩けなくなった、目が見えなくなった、、悲しい、、、可哀想。
だが「人間以外の動物にこの感情は無い。過去、現在、未来を意識して生活していない」のだそうだ。
確かに私の知る身体が不自由になってしまった犬猫たちは、そうでは無い犬猫と同じように明るい表情で生活している。
痛みなどを管理できれば、手足が不自由でもその表情に悲壮感は無い。
ただし飼い主が可哀想なものを見る表情でその動物を見れば、その表情を読み取って悲しい気持ちになるかも知れない。
人間の意図や感情を理解する能力は高いのである。
可哀想の価値観は人それぞれだが、例えば車イスを装着して明るく生活している犬とその飼い主に対して、「可哀想ですね」などと声をかける人がいたら、思慮が浅く配慮にも欠けるのではないかと、私は思う。
車イスで元気に走る犬を見ると、この犬は愛されているのだな、と私は微笑ましい気持ちになる。
仔猫を救うには知識と理解の共有
先日のとある紙面に、「子猫 救うには」という記事があった。
春は猫の繁殖シーズンで、当院にも保護された仔猫が何頭も来院する。
2014年度には日本全国で「赤ちゃん猫」が47,043匹も殺処分されている(成猫は32,702匹・環境省調べ)。
仔猫だけで、毎日128匹以上が殺処分されているという事になる。
この事実から目を背けて、人は本当に幸せにはなれるのだろうか。
命は大切だと、誰もが知っている。
でも知識が無いと、その命を大切にできなくなってしまう。
では何故、殺処分される仔猫がいるのだろうか?
その理由の1つは、『外出する親猫が不妊手術されていない』。
言い換えれば、『不妊手術していない外出する親猫にご飯を与えている人がいる』。
ご飯を与えるだけの方は必ずと言っていい程に、「かわいそうだから」と言う。
不妊手術は「かわいそうな手術」では無い。痛みやストレスの少ない手術である。
「ご飯をあげないことがかわいそう」だと思うのであれば、その先にある生後すぐに殺処分される命のことを考えて、ご飯を与える前に不妊手術をするべきである。
もう1つの理由は『適切に飼うことのできない人が無理に世話をしている』。
動物1匹にかける時間、空間、金額を考えれば誰でも限界がある。
仔猫を保護した、ワクチンや不妊手術はできないけどご飯だけなら、、、という飼い方ではご近所に迷惑をかけることになるだろう。
最期まで適切に飼う、又は責任を持って里親を探す自信がなければ、保護しないという選択肢を検討してもらいたい。
適切に飼える方が保護するチャンスを、飼えない方が奪ってはいけない。
今回は少し長くなってしまったが、誰も望んでいない殺処分を減らすために行政やボランティア、企業、動物病院関係者など多くの方が活動している。
その活動を知って頂き、知識が広がり、殺処分がゼロになることを願っている。
もし私が犬を飼うなら
里親募集の行政またはボランティアから飼うだろう。
今までも雑種犬を飼っているので、また雑種犬を選ぶと思う。
もし血統書付きの犬が欲しくなったら(ならないと思うが)、私はブリーダーから飼うだろう。
ブリーダーと言っても、営利目的に繁殖する人からは飼わない。
犬種としての特性を知り、外観や性格、能力など目的をもって繁殖している人から飼う。
おそらくドッグショーに行き、気に入る犬、熱心なブリーダーを探すだろう。
そして親犬を見れば、仔犬から飼っても成犬になった時の性格、大きさ等が予想できる。
良いブリーダーの条件は、以下の様に言われている。
①清潔な環境で飼育をしている。当たり前である。
②1〜2犬種のみを扱っている。多数の犬種のエキスパートになるのは無理な筈だ。
③老犬がいる。長くその犬種を見ているか、愛情を持って世話しているか、の判断材料である。
ペットショップから飼うことは一生無い。
7週齢(人間だと2〜3歳)くらいに親兄弟から離されてショップに来ている仔犬は、成犬になったときの問題行動を起こしやすい。
親犬も見られないので、性格も予想できない。
10年以上を共に過ごすパートナーである。自分に合う犬を慎重に選ぶだろう。